龍介(17歳・フリーター)です。
オレにはたった一人の家族がいる。
弟の太牙(たいが・小5)。ただ1人だけだ。
オレは中学生の時に両親を事故で亡くし、2人で親戚の家に住んでいたが、叔父夫婦の子どもに嫌がらせをされたり、叔父夫婦にまともに面倒を見てもらえなかった。その当時、太牙はまだ幼かった。
数年後、オレたち2人は親戚の家を出て、北町のアパートに2人暮らし。オレは中学を卒業後、高校には進学せず、朝は新聞配達、昼は工場等の派遣、夜は飲食店…とバイトを掛け持ちしている。中卒の就職先は全くなくて、アルバイトばかり。収入は派遣の収入のほうがいいが、不況で派遣切りが相次いでいる。オレもいつ派遣切りにあうかわからない。
太牙は現在、地元の「北町小学校」に通っている。太牙だけはオレとは同じ思いをさせたくなくて、高校や大学もオレが行けなかったことを太牙に行かせてやりたい。と、必死で家計を支えている。
生活保護は受けていないが、学校の給食費や教材費などを援助する「就学援助」を受けている。
太牙の授業参観も学校行事も仕事でほとんど行けていない。そういう面で太牙がさびしい思いをしているのではないのかが心配だ。
今日は、昼間の工場派遣が休みで、朝の新聞配達と夜の飲食店のバイトがある。
新聞配達が終わった後、夜のバイトがあるまでちょっと仮眠…(-_-)zzz
そして夜のバイトに出かけ、いつも通り仕事をこなす。
まだ17歳なので、夜は9時までしか働くことができない。9時になったらバイト終了。
そして家に帰って、ご飯を作らないと…と、すぐに家に帰った。
”ガチャ”
龍介「ただいまー!」
太牙「兄ちゃん、お帰りー!ご飯出来てるよ。」
え?ご飯?近所の人たちが持ってきてくれたのかな?今日はオレの誕生日ではないし。
龍介「太牙、これ…。」
太牙「今日は自分で作ったんだ。今日のおかずは野菜炒めだけど。」
龍介「お前、料理作れるのか?」
太牙「オレもう5年生だよ。家庭科で習っているもん。料理はチャンポン(ぶた・♂3歳)や翔太くん(中2)たちに教えてもらって。少しでも兄ちゃんのことを助けたいんだ。いつも一生懸命働いてくれているから。今日は「勤労感謝の日」だよ。」
あ、そっか…今日は「勤労感謝の日」だ。
太牙「兄ちゃん、いつもお仕事ごくろうさま。ありがとう。」
太牙が作った白いご飯。おかずの野菜炒め、みそ汁、漬物…と、ごく普通の献立。
オレ…太牙の一言で涙を流した。すごくうれしかった。今まで誕生日以外でお祝いしてもらったことがない。
太牙「兄ちゃん、泣いているの?」
龍介「オレすごくうれしい…お前の授業参観や運動会、学芸会、一度も参加していないのに…。ずっとさびしい思いをしていたのに。」
太牙「兄ちゃんが学校行事に行けなかったこと、別にさびしいとは思わないよ。兄ちゃん、お仕事忙しいし、家のためにがんばっているんだもん。少しでも兄ちゃんの役に立ちたいんだ。」
太牙がそんなことを思っていたなんて…。
家は貧乏で、太牙に携帯電話やゲームも買ってやれない。オレも普通の高校生のような生活ができない。
そんなことより、2人で毎日ご飯を食べたり、家族の時間を過ごすことが一番の幸せだ。
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