梅の実学園の仲間たち

梅の実学園のメンバー(生徒)たちの物語です。現在のメンバーたちは4800人(匹)!!みんなで作る学園です!!

会社と家庭で犠牲にされた女

こんにちは。貴代(36歳・美容関連会社勤務)です。

私は都内の美容関連会社に勤務するOLです。職種は電話受付。主力商品である化粧品や健康食品の注文受付やクレーム処理、アフタフォローなど、お客様の電話応対が中心です。電話応対以外ではメールによる注文受付処理も担当しています。

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電話受付スタッフは50名前後。正社員とパート・アルバイト従業員が中心で、中には派遣社員の方もいます。私自身は正社員です。

 

この会社に入ったのは4年前。それまではいろいろなことがありました。

短大卒業後に前の会社に入社。前の会社は大手でもない中小でもないごく普通にある中堅の会社です。職種は一般事務。どこにでもある仕事です。

会社の仕事自体は普通。電話応対にパソコン入力、雑用などごく普通の仕事。人間関係は普通でした。ある事件までは。

 

25歳の時に前の夫と結婚。結婚後もそのまま仕事を続けました。

しかし、問題が起こったのは結婚から4年後。29歳のときでした。

体調がいつものようにおかしいと思い、地元の産婦人科クリニックで調べたところ、やはり妊娠していました。前の夫との子どもです。結果当時は3か月目でした。

夫も子どもができたことを心から喜んでくれました。そろそろ育児休暇も考えないと。

 

次の日、育児休暇を取得しようと、前の会社の上司にお願いしましたが…。

上司「認められませんな~。」

貴代「え?育児休暇は認められるんじゃ…。」

上司「うちは経営状態が厳しいんだよ。一人休んだら、他の社員たちに迷惑がかかる。君も必要な戦力なんだから、休まずに仕事をしなさいよ。」

上司の一言で、育児休暇が認められませんでした。周りは冷ややかな雰囲気に包まれていました。

 

仕事はいつも通りにやらなければならない。月日が経つにつれてお腹が大きくなり、歩くことさえもままならない状態に。会社の休みはカレンダー通り。私のしんどさに誰も気遣ってくれませんでした。

そして9か月がたって、仕事が終わった帰りのときに急にお腹が痛み出し、その場で失神して倒れ、病院へ救急搬送されました。

懸命の応急処置の結果、私自身は過労で命には別条はありませんでした。しかし、お腹の子どもが胎内で動いていないことがわかり、子どもを取り出すために帝王切開をすることに。

手術室に入り、局部麻酔を受けた後に帝王切開を開始し、医師たちが子どもを取り上げましたが、結果は「死産」でした…。

仕事からかけつけた夫にこのことを話しましたが、夫はショックを受けました。

 

次の日、子どもの司法解剖が行われ、結果は胎内での窒息死でした。

あとで主治医から死産の原因を問い詰めましたが、私は仕事が休めなかったことなどを説明しました。

主治医「…やっぱりね。」

貴代「どういうことですか?」

主治医「あなたは仕事による過労が原因で、お腹の子どもが命を落としたんだよ。何で育児休暇が取れなかったのですか!?」

貴代「…会社が認めてくれなかったんです。」

主治医「あなた、「マタニティハラスメント」にあっていますね。子どもができて、育児休暇を取ろうとして、上司が認めてもらえず、周りも冷ややかな目であなたをにらみつけ、結局誰かの気を使わなければいけないまま仕事を続け、しんどい中でも仕事を続けた。結果は子どもが犠牲になってしまった。そうですね。」

貴代「…はい。」

主治医「こういうことは最近多いんですよ。特に会社の経営状態が厳しい会社や育児休暇がない会社は「マタニティハラスメント」が起こっているんですよ。労働基準監督署に訴えたほうがいいですよ。」

 

マタニティハラスメント…会社は自分たちの利益のため、周りの風潮のために、私とお腹の中の子どもを犠牲にさせた…。

私は悲しくて、悲しくて、ベッドで泣いていました。自分の体のことはどうでもよかったが、それよりもお腹の中の子どもを亡くしてしまった悲しさの方が大きい…。

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1週間後に私は退院しましたが、家に帰ると、夫が待っていました。

前夫「貴代、ちょっといいか?」

貴代「どうしたの?深刻な顔をして。まさか子どものことで何かあったの?」

夫が差し出したのは、離婚届だった。

前夫「貴代、オレと離婚してくれないか。」

貴代「え?何で?子どもを失ったことを怒っているの?私が仕事をしていることで不満があるの?」

前夫「そうじゃない!オレさ、他に好きな女ができたんだよね。」

と、現れたのは若い女。

前夫「お前と結婚する前からこいつと付き合っていたんだ。でも別れてお前と結婚したんだ。だけど、こいつのことが忘れられなくて、つい浮気をしたんだ。後にこいつのお腹の中にオレの子どもができて…だから、ゴメン!オレと別れてくれ!!」

貴代「何で!?何であなたと離婚をしなければならないの!?しかも私に内緒で他の女と付き合っていたなんて!!私は絶対に認めない!!その女と別れて!!」

女「何!?子ども殺した女のくせにエラソーに言うんじゃねーよ!!ウチは彼を愛しているし、お腹の中の子どもを産みたいの!!だから別れて!!」

前夫「…そういうことだから。」

貴代「いや!!離婚するなら慰謝料払って!!」

前夫「慰謝料は払わない。オレも金ないし…。自分の子どもを自分で殺したやつに慰謝料渡す筋合いはないわ!!今はこいつとお腹の中の子どもを大事にしたい。…さっさと署名捺印して。」

と、夫は女を連れて家を出た。

 

”ガチャン!!”

 

私は自分の子どもを亡くしたつらさを消したかったが、夫が私に内緒で他の女と浮気をして、しかも子どもまでできたなんて…。

私は泣く以外なかった。会社でも家庭でも振り回されて、犠牲にされた…。

 

後日、私は離婚届にサインし、区役所に提出。住んでいたマンションを明け渡した。

会社のことを地元の労働基準監督署に相談したが、その当時はマタニティハラスメントと言う名前自体が浸透していなかったため、動いてくれなかった。

私は上司に子どもを失ったことを訴え、慰謝料を訴えたが、聞いてもらえず、結局は前の日に書いた退職届を提出し、会社を退職した。

そして、実家に引っ越しし、母親に前の夫のことや会社のこと、子どもを失ったことを話した。母親はぎゅっと抱きしめてくれた。

母親「貴代、つらかったね…お母さんだったら○○さん(前の夫の名前)と会社を絶対に許せない…。ずっと家にいていいんだよ。」

貴代「お母さん…。」

私はお母さんの胸で泣き続けた。母の背中がこんなに温かいなんて…。

 

しばらくは家でゆっくりとした。何もやる気がなかったので、家でゴロゴロする以外なかった。退職から半年たつとさすがに何かしないといけなかったので、近くの店でアルバイトをすることに。

バイト先のお客さんから、この化粧品がすごくいいよって、サンプルをいただいた。

洗顔後にサンプルの化粧品を使用したところ、すごくよかったので、その化粧品を作っている会社に化粧品の注文をしようとしたところ、電話受付のスタッフの募集に目に入った。

就職先も探していたので、その会社に電話をしたが、後日面接に来てくださいとのこと。

 

次の日、履歴書を書いた封筒を持ってその会社の面接へ。

会社の採用担当からは何で前の会社を辞めたのですかと問い詰めましたが、私はその会社でマタニティハラスメントが原因で子どもを失ったことを話しました。その会社では結婚しても子どもを持つことが難しいことで辞めたことを話しました。

社員「…そうでしたか。大変でしたね。うちの会社ではそういうことは絶対にありません。うちの会社は女子社員が多いので、子育てをしながら働いている社員の方もいますし、育児休暇の取得実績があります。ご主人とはどうしましたか?」

貴代「離婚しました。今は両親と暮らしています。今のところ再婚の予定はありません。」

社員「そうですか。仕事ですが、お客様からの電話応対が中心ですが、大丈夫ですか?」

と、一応仕事のこととかいろいろ話しました。

面接が終わり、後日連絡するとのことです。ダメもとで就職活動をしているので、もしダメだったら、他を探そうと思っていました。

そして、後日会社から連絡があり、運よく採用が決まりました!それが現在の会社です。

 

仕事は最初は失敗はありましたが、何とか試用期間を乗り越えました。

3年後、母親がだいぶ前に弁護士に相談し、会社を相手取って損害賠償を訴えたことがわかりました。労働基準監督署から育児休暇取得義務違反で会社側が損害賠償支払い命令が下り、「マタニティハラスメント」が認められました。退職から4年がたってやっと訴えが認められました。

 

マタニティハラスメントは私だけでなく、多くの女性社員たちが被害に遭っています。正社員だけでなく、派遣やパートなどの非正規社員でも同様の被害に遭っています。国は保育園の待機児童の解消や児童手当の拡充など、形だけの支援はありますが、マタニティハラスメントを平気で行う会社がある限り、子どもを増やすことなんてありえないです。少子化が加速するだけです。

 

私は今の会社で電話受付の仕事をしています。一応客の立場として、お客様に声の笑顔を届けています。

再婚ですが、今はしたくありません。他に相手がいないのもありますが、もう嫌な夫婦関係になるのはたくさん。しばらくは独身生活を楽しみたいと思います。

 

これ以上、多くの女性たちが会社や家庭で犠牲にされないことを願って…。

 

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